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2012年5月29日 (火)

ふたりの音楽家

517wppxe17l__sl500_aa300_先週末、ふたりの音楽家の存在を知った。お恥ずかしながら二人とも知れば知るほどとても著名な故人。ひとりは、武満徹(1930-1996)だ。建築家の友人から意見を聞かせてほしいと届いたプレゼン資料の中に「サイレント・ガーデン」という美しい散文があった。静かにはりつめたような耽美な表現に、心を揺さぶられた。原文を全て読んでみたいと思ってさっそくアマゾンで注文した書名は、散文と同じタイトルの『サイレント・ガーデン』(新潮社)だ。まず、なんといっても装丁が美しい。畝のある温もりを感じるハードケースには、裏表ともに小窓が設えられている。本は両扉の構成になっており、片側は闘病生活を記した<滞院報告>、もう片方は氏が“滞院”中に書いた料理のレシピ集<キャロティンの祭典>。題名が小窓から控えめに顔をのぞかせる仕組みが、なんとも心憎い。ケースから出すと、本は薄紙を纏い、扉裏の中台紙は片側が冴えたラベンダー色、もう片側がローランサンピンク。この驚くほど凝った贅沢な仕立は、編集者の武満氏へのオマージュそのものだ。レシピ集はこれからの日々にいかすとして、<滞院報告>はあっという間に読了。切実にして誠実な氏の言葉は、胸に迫り、沈黙の涙を誘った。

980gould17 もうひとりは、カナダのピアニスト、グレン・グールド(1932-1982)。グールドが演奏するバッハの<ゴルトベルク変奏曲>の旋律を聴き、映像を見て衝撃を受けた。真に価値あるものに触れたときには、理屈抜きに一気に心を掴まれる。早速CDを求めに行くと、ちょうど没後30年の特集コーナーが設けられており、CDとDVD、書籍を求めた。私が購入した<ゴルトベルク変奏曲>のCDは、1959年のザルツブルクでの音楽祭の演奏を録音したもの。スピード感のある端正さ、ハツラツとしたハミングや独特の遊び心が感じられる。You Tubeで検索をして、他の年代と聞き分けると、55年に録音されたものは、ポリフォニー体系を駆け抜けた若い才気に満ちた音色。そして、81年の録音は、着実なる確実を重ねたグールドの叡智と再構築したバッハの創意が見事に調和している。音色の熟成は、毎日バッハを弾いたというグールドだからこそ出せるものなのだろう。

武満とグールドは、直接交わることはなかったが、調べてみると微妙に関係性がクロスする。グールドがこよなく好み、なんと100回以上も見たという勅使河原宏監督の映画『砂の女』の映画音楽を担当していたのが武満。そして、武満の最後の作品となったフルートのための<エア>では、グレン・グールド賞を受賞している・・・。この2~3日で得た情報だけでも、知るほどに深く引き付けられる。しばらくは、ふたりの音楽家に心を奪われそうだ。

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