色めく
明治生まれの女流画家・上村松園は、最も好きな日本画家である。松園の絵をはじめて知ったのは学生時代だったと記憶している。見ているだけで心が清まる、ピンと張り詰めた美しさがある。線も色もとても繊細で描かれている女性は儚げなのに、不思議に黙とした迫力がある。
先日、偶然点けたテレビ番組で松園を題材としていた。話は口紅へと及ぶ。時代が西洋かするにつれ、油性のスティックタイプの口紅を若い女性が好んでつける様子を、苦々しく思っていたらしい。松園が理想とするのは、彼女の母親のような凛とした江戸時代の女。当然口紅は、本物の紅花から作られていた。松園は塗り方にもこだわっており、上唇を薄めに、下唇を濃い目の色に塗ると、女性らしさがふっくらと香り立つとのこと。
お仕事で仲良しになったお姉様からいただいた伊勢半本店の本紅を後生大事に持っていたのを思い出し、さっそく松園流に粧ってみた。筆を水でしめらせ、大切にそっと紅を溶かし付ける。昔の人は薬指で紅をつけ、薬指を「紅差し指」とも呼ぶとも聞いたことがある。人差し指でも小指でもなく、薬指というのがなんとも色っぽい。水性の紅は唇のキメに入り込むのか、ピタリついて落ちにくい。グラスや箸にも油分がつきにくかったので、気の張る会席料理やお茶の稽古のときなど、これからはちょっと贅沢な日常使いをしてみたいと思う。
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