2015年4月 3日 (金)

どこまでも歩いてゆける

Img_3845_2須賀敦子さんのエッセイに「本当に足に合う靴さえあれば、どこまでも歩いてゆける」という一節がある。『ユルスナールの靴』だっただろうか。とても好きな一節だ。裏を返せば、足に合わない靴では、歩行を妨げ、好奇心さえ失せてしまう。そう高くはない背丈を底上げするために、長年ヒールを愛用しているが、デザイン性と履き心地の両方を満足させてくれる代物にはめったにお目にかかれない。対外はデザインを重視して、多少の足の痛さをやせ我慢し、夕方にはどっと疲れを溜め込んでいることが多い。そんな私が一念発起して、初めて自分の靴をオーダー。今回はあくまでもパターンオーダーなのだが、とても丁寧に作ってくださる工房を教えていただき、大満足の一足が完成した。

お願いした工房は神戸にある「Maciolla(マチョッラ)」。大阪で靴の学校で学んだ後に、フィレンツェへ渡り、帰国後はファッションブランドのプレスやバイイングなども経験した女性によるもので、デザインがひと味あか抜けている。

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Img_3692_2 オーダーの手順は、足の計測から始まる。その後、雑誌などの写真をベースに好みのデザイン要素を組み立て、その場でデザイン画をおこしていただく。既存の木型からトゥやヒールの形を選び、約100種類もの革見本の中から質感や色の微妙な違いを吟味していく。待つこと約1ヶ月、まずはサンプルが届く。試し履きをして修正箇所を打診。その後、かなり完成に近い片足のサンプルが届きディテールをつめ、ようやく完成を迎えるのだ。私は最終調整の段階で、トゥの切り替えラインの位置やプラットフォームの色、サイドがくるぶしに当たらないように数ミリ調整していただいた。こちらの細やかな要望にも真摯に応えてくださり理想のデザインを一緒に追求してくれる。

この靴でなら、どこまでも、エレガントに歩いて行けそうだ。

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2015年3月17日 (火)

丁寧な仕事

FullsizerenderFullsizerender_2_2最近ご一緒したフラワーアーティストの方に、ブートニアを作って頂いた。撮影し終わった作品をいただき、多肉植物を植木鉢に根付かせようとリボンをほどいたら、とても丁寧な仕事が施されていた。感動! 遠目に撮影するだけなので、なんとなく形にまとまっていればよいものを、針金で支えてフォルムをしっかりとデザインし、マスキングテープで美しく巻いた上に、バイアステープを巻き、その上からリボンをかけていた。見えない部分もきちんと仕事がほどこされたブートニア。誰が見ていなくても、自分がその仕事に対してきちんと納得しているかどうか、そういうことが大切なのだと、しみじみ感じた。

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2014年7月 9日 (水)

職人の道具

4私の夫は手縫いの鞄を作る職人である。工房を訪れたときに、ふと道具が目に留まった。革包丁や錐などの刃先を保護するカバーを、余り革でセンスよく作っていた。以前、江戸指物の職人さんを取材した際に、「職人は自分にあった、やりよい道具を自ら誂える」と聞いたことがある。その職人さんは祖父の代から引き継いだものも合わせて100種類以上の鉋を使い分けていた。道具への美意識は、その職人の仕事ぶりを物語ると感じた。

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